SaaSという言葉も、Churn(チャーン=顧客による解約)を中心としたSaaS KPIの用語も、最近では頻繁に耳にするようになりました。Web上の情報を見ていても、私がfreeeにいた頃は英語の記事でしかなかったSaaS メトリクスの解説が、日本語でも増えてきました。(例えば、こちらの記事です。)

Churn Rateの分析の問題点

最近ちょっと盲目的だなあと感じたのが、Churn Rateが何%か、みたいな会話です。noteにもこういう記事が出回ってたりと、Churn Rateは○%に抑えるべき、みたいな見方が多いですよね。自分も仕事で良くこのKPIを使ってますし、重要な指標であることは間違いないんですが、Churn Rateの数字だけを見て諸々の判断をするのはちょっと勿体ないかなあ、と思います。(契約数ベースだけでなく、収益ベースでも計算すべき、とかいう単純な話ではないですよ)

事例:同一のChurn Rateの2社比較

以下の2つのチャート(Customer Churn Rate)をみてください。これらは、A社とB社の直近1年程度のChurn Rateのデータです。

グラフを見比べればわかる通り、この2社は、Churn Rateの数字がほぼ同じです。過去1年程度見ると、毎月2.1%〜2.3%程度の解約でほぼ同じ。強いていえば、Aの方が2.0%の月があるので、やや低いかなあくらいですが、大した差ではないです。

上場企業が3ヶ月ごとにChurn Rateを開示したりしていますが、そこだけ見ていたら、間違いなく2社とも同じくらいの解約状況に見えるのではないでしょうか。

顧客獲得コホート別に見ると

そこで、今回見ていただきたいのが、次の2つのチャート(Customer Retention by Monthly Cohort)です。

このチャートはやや変わっているので、見方を説明しますと、まず、1つずつのラインは顧客を獲得した各月について(コホートと良く言われます)、獲得時の顧客数を100とした場合に契約が続いている顧客数を経過月数ごとに示しています。例えば、2018年4月のラインが横軸12・縦軸70のところを通過している場合、2018年4月に獲得した顧客の30%が1年経過した時点で解約、70%が契約を継続していることを意味しています。

データは2017年1月から2020年12月まであるので、ラインは全部で48本、2017年のコホートを青色、2018年・2019年のコホートを灰色、2020年のコホートを明るい緑で色付けしています。

さて、このChartのA社とB社の比較からどういうことが考えられるでしょうか。繰り返しになりますが、この2社は直近1年程度の月次のChurn Rateの数字がほぼ同じです。しかし、このコホート別の分析では状況がかなり異なっていることが分かります。

まず、A社はB社よりもラインが上側にあり、特に青色になっている2017年のコホートにおいて、B社よりも顧客の継続状況が良いと言えます。しかしながら、A社は実は問題を抱えていて、直近のコホートになればなるほどラインが下側に動いており(青->灰色->緑の順で悪化)、最近獲得した顧客ほど解約率が高くなってきてしまっています。背景としては、獲得チャネルの変化による相性が悪い顧客獲得の増加、顧客教育(オンボーディング)やカスタマーサクセスの問題など、色々あるでしょう。

一方、B社は全く逆で、最近獲得した顧客ほど解約率が低くなってきており、長期的な顧客解約の見通しとしてはB社の方が良い状況にあります。

全社のChurn Rateは、投資家や経営層の注目度が高い数字ではありますが、上記の例のように、契約期間も利用状況も獲得チャネルも違う様々な顧客を分母として平均した数字であるため、過去1年程度のChurn Rateがほぼ同じでも、顧客解約の実態や改善状況がかなり異なることもあり得ます。したがって、少なくとも、コホート別の分析はしましょう、という話でした。

Posted by: Ryoichi Fujita(藤田亮一)